研究概要 |
本研究は,近赤外分光法(NIRS)による筋組織酸素濃度測定値が組織酸素運搬機構といかなる因果関係にあるかを,顕微分光法により細胞レベルで明らかにし,NIRS測定値に対するヘモグロビンとミオグロビンの寄与率など,NIRS測定波形を解釈する上で不可欠な基礎資料を得ることを目的としている. 1.ヘモグロビンとミオグロビンのNIRS測定値への寄与に関する検討 前年度に引き続き,体表光プローブを用いて各種運動負荷におけるNIRS測定を行い,筋代謝との関連を検討した.プローブは,絶対値計測が可能な空間分解方式のプローブを新たに作成し、使用した.各種運動負荷の実験結果よ、1)安静時の筋組織酸素飽和度は約70%であること,2)運動強度・様式に依存して定常状態の酸素飽和度は大きく異なること,3)酸素飽和度が30〜40%で嫌気性代謝に移行すること,4)酸素供給の絶たれた阻血状態であっても酸素飽和度の最低値は約25%であることを明らかにした.また,最大収縮時の筋中血液量変化から血中ヘモグロビンと筋中ミオグロビンの割合を推定したところ,ミオグロビンのNIRS測定値への寄与率は70%以上にも及ぶことが推測され,hypoxiaにおけるNIRS測定値はミオグロビンの酸素化状態を強く反映することを示唆する結果となった. 2.ヘモグロビン・ミオグロビン飽和度変化に関する顕微分光測定 全血を対象に顕微分光法による飽和度測定法を検討し,体表プローブで使用する波長帯域では測定が困難であるものの,光吸収の強い500〜600nmの帯域で赤血球の散乱を除去し定量的に酸素飽和度を測定可能なシステムを開発した. 3.筋組織酸素濃度の時間変化に関する解析システムの開発 血液(ヘモグロビン),組織,ミオグロビン,クレアチンリン酸代謝系,解糖系,有酸素代謝系から成る6コンパートメントモデルを作成し,NIRS測定値と筋酸素運搬系の因果関係を解析する基本システムを開発した.
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