研究概要 |
今年度は,近赤外分光法(NIRS)による筋組織酸素濃度測定値が組織酸素運搬機構といかなる因果関係にあるかを,実験と計算機シミュレーションで明らかにし,NIRS測定値に対するヘモグロビン(HB)とミオグロビン(Mb)の寄与率など,NIRS測定波形を解釈する上で不可欠な基礎資料を得ることを目的とした. 1.NIRSによる筋酸素飽和度の運動負荷応答に関する実験的検証 前年度に引き続き,筋組織酸素飽和度の絶対値計測が可能な空間分解方式の試作プローブを用いて,運動負荷時のMRS測定を行い,筋代謝との関連を検討した.特に運動負荷強度と部位差に着目して負荷応答解析を行った.低強度収縮では負荷応答に有意な部位差は認められなかったが,負荷が増大すると,前腕に比し前脛骨筋などでは運動直後の回復期の応答が2相性となり酸素飽和度の上昇が遅延した. 2.筋組織酸酸素運搬モデルによるNIRS測定値の解析 上記の特徴的な応答が何に起因するかを明らかにするため,前年度開発の筋代謝モデルを用いて実験結果を解析した.その結果,Mb量と運動強度を増加させたときに回復期の筋酸素飽和度に遅延が生じることが示唆された.遅延のメカニズムは,上肢に比べ下肢のMb量が豊富であり,HbとMbの酸素飽和曲線が大きく異なるため,高強度収縮ではMbの脱酸素化が顕著で,再酸素化の過程でMbに由来して飽和度上昇の遅延が生じるためと推測された. 3.ヘモグロビンとミオグロビンのNIRS測定値への寄与に関する検討 前年度までに開発の顕微分光装置を用い,赤血球の散乱を除去し,マウス微小血管の血液酸素飽和度を定量測定することができた.微小透過照明系や反射法の採用で,筋組織中の微小血管とミオグロビンを空間的に分離し,ヘモグロビンとミオグロビンのNIRS測定値への寄与率を細胞レベルで検証できる見通しを得た.
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