個体レベルの悪性腫瘍の進展には、血管系がさまざまな形で密接に関与することが知られている。なかでも最近注目を集めているのは、腫瘍に伴う血管新生の現象である。新生した血管は、腫瘍への栄養の供給や、他の臓器への転移に関与することが報告されており、血管新生を制御することによって腫瘍の増殖抑制が可能になると考えられている。そこで本研究では、腫瘍の病態の進展をin vivoに観察できるモデル動物を作製し、血管新生過程を観察すると同時に、腫瘍の微小循環動態の特性について詳細に検討することを試みた。 本年度は、増殖因子の産生など、腫瘍に特異的な微小環境の変化が微小循環動態に及ぼす影響を解析するため、各種増殖因子が血管系に作用する際のメディエーターとして働くと考えられている一酸化窒素(NO)に着目して、その産生阻害剤を投与した条件下での微小循環動態を実時間型の共焦点レーザー走査型顕微鏡システムを用いて観察した。 生体顕微鏡下に腫瘍の微小循環動態を観察したところ、腫瘍組織内部の血管では、血流速度の低下および白血球と血管内皮細胞の相互作用が顕著に減少していることが明らかになった。一方、NOの阻害薬の投与によって、白血球の接着性は正常なレベルまで上昇したことから、腫瘍由来に産生されるNOが白血球の内皮細胞への接着を妨げ、引き続いて起こる血管外遊走、組織における免疫反応といった一連の過程を阻害していることが示唆された。 そこで現在は、微小循環の調節によって血管新生を抑制するという、新たなコンセプトに基づいて抗腫瘍薬を検索するという観点から、白血球の組織への浸潤の促進を介した免疫系の賦活化について検討を行っている。すなわち、ある一定期間、継続的にNOを阻害することで血流速度や血球挙動を正常な血管と同じレベルに保つことによって、白血球の血管内皮細胞への接着を増加させることを試みている。 以上の研究成果は、論文(英文原著1報、その他5報)および学会(国内学会2報、国際学会2報)で発表した。また、本テーマで指導下の博士課程の学生が世界微小循環学会において奨励賞を受賞した。
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