研究概要 |
細胞から構成される組織再構築型の人工血管を開発するために必要不可欠な条件である血管内皮細胞の底面への接着力が向上する環境・培養条件を探索するために,力学的な刺激の一つである静水圧を血管内皮細胞に負荷し,人工的な材料表面への接着力に及ぼす静水圧の効果を定量的に解析することを平成14年度の目的とした。シリコンコートした硝子に接着したECに5MPaの一定の静水圧を24時間に亘って負荷したところ,52%の細胞が剪断応力によって剥離することなく材料表蔓に接着していることがわかった.静水圧を負荷しないで直接剪断応力を負荷した系では,剪断応力の負荷開始前に比べて45%の細胞が剪断応力によって剥離することなく材料表蔓に留まる傾向が得られた.一方,変動的な静水圧負荷のECの接着強度に及ぼす影響を調べるために,ECを播種した材料に3.5〜6MPaの変動的な圧力を0.017Hzの頻度で24時間に亘って負荷した.静水圧を負荷した群では70%の細胞が剪断応力によって剥離することなく材料表蔓に留まることがわかったのに対し,あらかじめ静水圧を負荷していない系ではその割合は33%になることがわかった.従って,周期的な圧力変動が血管内皮細胞の接着力を増強する傾向があることがわかった.生体内の血管では,剪断応力の大きい動脈にのみ拍動が存在し,剪断応力の低い静脈においては脈動が存在しない.したがって,血管内皮細胞が高い剪断応力によって容易に剥離しないように拍動による圧力変動がなんらかの細胞接着に関わる生理活性作用を細胞にもたらしている可能性も考えられる.今後,本研究で得られた結果の詳細なメカニズムの解明が必要であると考えられる.
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