研究概要 |
本研究の目的は,心理学実験とfMRI実験を併用することにより,ヒトの視覚系の物体認知や空間認知の機能を明らかにすることである.昨年度われわれが行った心理学実験により明らかにされた,運動物体の認知に関する上視野と下視野のベクション誘発における非対称性の問題に引き続き,本年度は,ベクションとOKN(運動物体が誘発する眼球運動)との関係を調べた.用いた実験機器はCAVEという,一辺3mの立方体状の没入型バーチャルリアリティ装置である。被験者はCAVEの中に座り,身体を固定し,両眼立体視用のゴーグルを着用し,WANDと呼ばれる装置を手で操作して反応し,その際にアイマークレコーダーによる眼球運動計測を受けた.被験者の視野全体に左右方向に流れるランダムドットを提示し,ベクションを誘発した.ベクションの強さを操作するために,前方1.2mに見える固定壁の0.5m前方に運動物体が見える条件と,その固定壁の0.5m後方に運動物体が見える条件を,両眼視差を操作することにより設定した.結果は,前方に見える条件の方がベクションは強く見え,そのときに生起するOKNにより移動した眼球位置の平均値はベクションが強いほど大きく変動した.一方,OKNの緩徐相はベクションの強さの影響を受けなかった.このことからベクションの強さとOKNには強い関連があることが,初めて明らかにされた.しかしながら,この2つの事象の関連の因果の向きについてはわからないので,fMRIによる脳機能画像処理を併用して,運動認知の性質を解明する必要がある.
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