昨年度、1μJ/pulse以上の高出力赤外短パルスとしては世界最短の55fsというパルスの発生に成功したが、この赤外パルスを用いて三次の光学非線形現象に基づいたいくつかの分光法を開発し、凝縮相中における分子の振動ダイナミクスの解明に応用した。具体的には、3-パルスフォトンエコー、波長分解3-パルスフォトンエコー、波長分解過渡グレーティング等であり、これらの手法により分子振動ダイナミクスのそれぞれ特徴的な側面をとらえることができることを示した。これらの手法は信号を複数の座標、遅延時間の時間軸や波長で観測する2次元分光である。特に、波長分解3-パルスフォトンエコーは2次元NMRの原理を振動状態に応用した手法である。これらの手法をいくつかの凝縮相中における振動状態に応用し、遷移エネルギーの揺らぎの相関関数、振動励起状態の寿命、回転緩和時間、非調和結合等を求めることができた。具体的には、メタノール中のOCN^-とSCN^-の非対称伸縮振動、Fe(CN)^<4->_6の錯体のCN非対称伸縮振動(T_<1U>モード)、Ruポルフィリンに配位したCOの伸縮振動、-N=C=N-結合を持つ有機化合物の非対称伸縮振動等である。実用化へ向けた問題点しては、まずレーザーの安定性の問題がある。空気の流れなどを調べ、実験室の温度を安定させることを行った。その結果、レーザーの安定性はある程度あがったが、まだ十分でない。その原因として考えられることは、光源となるチタンサファイアレーザーの出力のパルス幅が45fsとかなり短いため、出力の不安定性を導入してしまうことである。そのため、パルス幅をある程度犠牲にしてレーザー出力の安定性をあげることが重要であると考え、100fs程度のパルス幅を持つチタンサファイアレーザー及び光変換装置の製作を検討した。
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