昨年度、赤外領域における種々の2次元振動分光(3-パルスフォトンエコーや波長分解グレーティングなど)を開発し、その有用性を示してきた。本年度は、さらに新しい系に本手法を適用し、液体や溶液の相互作用、ダイナミクスに関する情報を得ることを行った。昨年度行った均一系の溶液ではなく、不均一な系、また化学的に興味のある系を選び、本手法が化学全般の問題に適用することができる一般的手法であることを示した。まず、逆ミセル内ウォータープールの水分子OH伸縮振動に対する非線形分光の実験を行い、隣接する水分子間の分子間相互作用や水分子の動的揺らぎに関する情報を得ることができた。逆ミセルを系とする実験は、バルクのH_2Oに対する非線形分光の実験が困難なことから、逆ミセルという特殊な系の性質を調べるということと、さらにバルクも含めた水分子に関する一般的な性質を調べることができるモデル系となりうる。また、超分子化学への応用として、ホストーゲスト分子に対する実験を開始し、包接された分子の回転運動に関する情報を得ることをその第一の目的としている。本手法を一般化、実用化するうえで大きな問題点は、赤外パルスの安定性である。当初は、十分なパルスエネルギーが必要であると考えていたが、むしろ出力より安定性が重要であるという認識に至った。現有のシステムでは、superfluorescenceを用いた光パラメトリック発振(OPG)を行っており、この手法では光パルスの不安定性を導入する可能性が高い。そこで、白色光発生を基本としたOPG、さらに差周波発生装置の製作を行った。その結果、近赤外領域のアイドラー光では1.7-2.4mm、シグナル光では1.1-1.5mm、中赤外領域では、3.0-5.0mmのパルスを得ることができ、中赤外領域のshot-shotの安定性は1%以下に押さえることができた。また、研究のまとめを行った。
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