研究概要 |
1.新たな逆位DNAシステムの解析 昨年度の研究で,検出感度の問題点を改良する必要から,新たな逆位DNAシステムの検索を行い,大腸菌の一部の菌株に存在する相変異現象に注目して解析を進めた。本年度は,それらの菌株の鞭毛相変異関連遺伝子群(flkA, fllA, flmAならびにfliC)について,さらに詳しい構造解析と発現解析を行った。その結果,これらの遺伝子はサルモネラの相変異系と非常に類縁ではあるが,既に逆位DNA構造は不活性化していることが判明した。 flkA, fllA, flmA発現状態でのfliC遺伝子の抑制機構については,リプレッサー遺伝子による場合(flkAとflmA)とプロモーターの不活性化による場合(fllA)の2種類が存在することが明らかになった。また,flkA, fllA, flmA遺伝子の周辺ではそれぞれ異なる大規模な染色体構造の再編成がおこっていることが判明し,ゲノムの進化を考える上で重要な発見がもたらされた。 2.サルモネラの逆位DNAシステムについての新知見 サルモネラLT2株の全ゲノム配列が決定され,DNA配列情報が利用可能になったので,ゲノム中に新たな逆位DNAシステムが存在する可能性を検索し,本研究課題への利用の可能性を探った。その結果,欠陥プロファージであるFels-2内にDNA逆位酵素の遺伝子があり,その産物は鞭毛相変異系のDNA逆位酵素とアミノ酸配列で60%以上の相同性があることが判明した。このことは,サルモネラ野生株ではDNA逆位酵素が2つあることを意味しており,Hセグメントの逆位は2つのDNA逆位酵素によって2重に制御されている可能性を示唆するものである。サルモネラの鞭毛相変異は,その発見以来長い間Hinのみによって制御されていると考えられてきたので,この知見は非常に重要な発見である。なお,この新しいDNA逆位酵素はFinと命名した。
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