研究概要 |
1.不揮発性メモリー素子の設計 本研究で開発するバイオセンサーは,3つの要素からなる。第1の要素は特定物質の検出素子でありこれには転写調節蛋白質を用いる。第2の要素は検出情報を蓄える記憶素子であり,これにはDNAの逆位反応を利用する。第3の要素は,不揮発性メモリーの状態によって発現の有無が決定されるレポーター遺伝子である。第1の要素(検出素子)が特定の物質との結合した場合,これによって第2の要素(逆位DNA)の逆位反応を触媒する酵素(DNA逆位酵素)の遺伝子が発現されるようになるシステムを作成する。 2.モデル実験系の確立 モデルセンサーとして,鞭毛相変異を利用したシステムを構築した。大腸菌株EKK15はfliC遺伝子に欠損をもち,染色体上の別の座位にサルモネラのfljB遺伝子をもつ。この株はDNA逆位酵素の遺伝子を完全に欠き,fljBプロモーターを含むHセグメントはfljB非発現の向きに固定されている。したがって,本菌株は遊走性を示さない。この株内でDNA逆位酵素を発現させれば,Hセグメントの逆位にともなって,遊走性のある細菌が産生されることになる。発現ベクターを用いて,DNA逆位酵素の遺伝子がIPTGまたはアラビノースによって誘導されるシステムを構築した。 このラクトースセンサーとアラビノースセンサーについて,感度や物質濃度とアウトプットの直線関係を検討した。その結果,いずれの場合も検出感度が非常に高く,そのためにバックグラウンドのレベルがすでにかなり高いことが判明した。 3.新たな逆位DNAシステムの検索 バックグラウンドの問題を解決するために,人為的な制御が容易な逆位DNAシステムを検索した。有効な解決策は見いだせなかったが,その過程で,欠陥プロファージに由来する大腸菌の欠陥型逆位DNAやサルモネラの第2のDNA逆位酵素などの発見がもたらされた。
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