研究概要 |
本研究の目的は,感覚細胞あるいは伝達経路に障害を持つ患者のための感覚機能代替システムにおいて,その設計手法を確立することである.本研究の成果の概要を以下に示す.(1)脳幹の蝸牛神経核を直接電気刺激して聴覚を再生させる聴性人工脳幹インプラント(ABI)の基礎研究のために,大脳皮質・蝸牛神経核でそれぞれ計測用・刺激用に用いる微小電極アレイを開発し,さらに,それらでABIの動物実験モデルを構築した.(2)同モデルで動物実験を実施し,ABIの有用性を直接的に裏づけた.蝸牛神経核を刺激したときの聴皮質の時空間的な反応パターンは,音刺激したときそれに類似しており,同パターンの変化から適切な場所を適切な電流強度で刺激すれば,音の高さと強さを知覚させられる可能性が高いことを実験で示した.(3)電極間の神経を選択的に刺激できる多点ゲート刺激法を提案し,それを動物実験で検証した.多点ゲート刺激法は,陰極の刺激で電極周辺の神経を幅広く発火させ,不必要な活動電位の伝播を陽極で抑制することで,電極間の神経でも選択的に刺激できる.理論計算と動物実験で同方法を詳しく考察したところ,数100μmの分解能で,電極間の神経を選択的に刺激できることがわかった.(4)音刺激で誘発される聴皮質の反応を考察し,聴皮質は複数の領野に分かれており,それらの機能構造は領野ごとに異なることを明らかにした.(5)シミュレーションと実験データの独立成分解析を用いて,誘発電位の時空間的特徴を考察した.特に聴性誘発中潜時反応に着目し,同反応に見られる波形の多様性は,発火活動に起因する成分・シナプス活動に起因する成分・皮質下に起因する成分の大小関係で説明できることを示した.
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