研究概要 |
従来報告されている単層カーボンナノチューブによる水素吸蔵量の実験データのうちで極めて優れた特性を示すデータが,実は,金属などの不純物を含みかつ極めて微量なサンプルを用いたことに由来するとの観測が強まってきた.そこで,これまでのレーザー・オーブンカーボンナノチューブ生成装置から触媒CVD法に合成方法を変更して,より大量かつ高純度の単層カーボンナノチューブの生成を試みた.従来は,単層カーボンナノチューブのCVD合成の炭素源分子としては炭化水素か一酸化炭素が用いられているが,本研究では炭素源としてアルコールを用いることによって,極めて高純度かつ高収率で単層カーボンナノチューブの合成が可能であることを明らかとした.生成された試料に対して,ラマン散乱分光,走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡,熱重量分析,赤外吸収,近赤外蛍光分光によって検討した.また,Fe/Co微粒子をゼオライトに担持して触媒とする方法に加えて,シリコン基板や石英基板に極めて簡単なデップコート法で触媒金属を直接担持して,やはり高純度の単層カーボンナノチューブが合成可能であることを示した.この方法によって,金属触媒あたりの単層カーボンナノチューブの収率は最も高くできる.また,このようなCVD反応のメカニズム解明を目指して,金属クラスターとアルコールとの化学反応をFT-ICR質量分析装置にて検討するとともに,分予動力学法シミュレーションによって,金属クラスターと炭素源が反応し,単層カーボンナノチューブの前駆体となるキャップ構造が形成する過程についても引き続き検討した.一方,単層炭素ナノチューブによる水素吸蔵特性に関しては,単層炭素ナノチューブのバンドル(7本)などの様々な幾何学形状のナノチューブと水素分子を含む系での分子動力学法シミュレーションを引き続き行うとともに,従来の実験結果を検討し,常温においては米国エネルギー省(DOE)が自動車用燃料電池の水素吸蔵材料の目標として掲げる重量密度6.5wt%程度には遙かに及ばない重量密度しか実現できないとの結論を得た.
|