濡れ性の高い液体を満たした流路内に置かれたヒータの一端をパルス状に加熱すると、近接箇所の発泡が次々に誘発され(沸騰伝播現象という)、気泡は流路内を一方向に成長し、他端から消滅する。本研究は、このような沸騰伝播現象を利用する全く新しい原理に基づくマイクロポンプを試作し、性能を確かめるとともに、関与する諸パラメータについて実証的検討を行い、実用化を図ることを目的として研究を行った。 初年度(平成13年度)は、先ず、ポンプ動作におけるヒータの繰り返し加熱に伴う温度上昇を許容値以内に抑えるための許容加熱周波数を、3次元放熱過程に関するシミュレーションにより明らかにした。次に、沸騰伝播現象の温度依存性などに着目して加熱方法を工夫することにより、ヒータの一端から他端に向かって安定した伝播現象を起こすことに成功した。それらの結果から適切なマクロポンプ装置(加熱部寸法0.2mm×2mm)を設計・製作し、最大25ヘルツの加熱周波数で、駆動部左右に接続したキャピラリ管間に生じた液柱高さの差(8mm)から顕著なポンプ作用が生じることを確認した。 次年度(平成14年度)は、先ず、一方向への伝播現象を引き起こすための加熱条件、並びに伝播速度と温度、伝熱過程の関係を調べ、また平滑な白金蒸着面を用いることにより、濡れ性の比較的悪い水においても伝播現象が生じることを明らかにした。次に、沸騰伝播現象の繰り返しにおける再現性が維持できる許容周波数を、オープンプール条件下において調べ、最大で約70ヘルツまで可能であることを確かめた。また再現性の失われる主な原因はヒータの温度上昇よりも残存気泡からの発泡である可能性が高いことを示した。さらに、マイクロ流路内における沸騰伝播現象の繰り返しによる液輸送量を、キャピラリ管内の液体メニスカスの移動距離から測定し、管内液柱高さの差からポンプ能力を評価する場合よりも高い40ヘルツの加熱周波数までポンプ動作が可能であることを確認した。
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