研究概要 |
磁界の数値解析技術は,磁界分布を支配する方程式の離散化手法と,解析モデル内に存在する磁性材料のモデリング手法が融合されて,初めてその真価を発揮する.離散化手法に種々の工夫を凝らし,解析プログラムの高速化を図っても,磁性材料の磁気特性が適切に考慮されていなければ,得られる解の精度は低下し,機器の小形・高効率化設計のための十分な指針は得られない.そこで,電気・電子機器の主な磁気回路材料として用いられているけい素鋼板の磁気異方性(ベクトル磁気特性)を,二方向励磁型単板磁気試験器を用いて評価する標準的な方法を検討し,測定された結果を磁界解析に適用して,その妥当性を検証することが,本研究の目的である. 本年度は,本研究の基本となる単板磁気試験器の改良に主眼を置き,次の3項目について検討を行った. (1)計測システムの構築と測定精度の検討 人為的誤差を軽減し,高精度の絶対値測定を実現するために,グラフィカルプログラミング言語を用いて,ユーザフレンドリな全自動ディジタル計測システムを構築した.鉄損測定の再現性は,励磁枠から試料を脱着しない場合で±1.0%であり,工業的に十分な精度であることを確認した.ただし,2T超の領域では,力率低下に伴い誤差が大きくなる傾向にあり,これに関しては引続き検討を行う. (2)各種単板磁気試験器および可変型空隙磁束補償コイルの磁気回路設計と試作 幅広(100mm)と幅狭(30mm:エプスタイン試料と同一)試料用のスカラ磁気特性およびベクトル磁気特性測定用の試験器の励磁枠と補償コイルの磁気回路設計と試作を行い,当初の目標とおり,「測定可能最大磁束密度=2.0T」を達成した. (3)ベクトル磁気特性の近似法の検討とシミュレーションによる検証 飽和に至るまでの高磁束密度領域における実用的な近似法を開発するとともに,測定誤差によるデータの脈動を抑制するためにBezier曲面を用いた平滑化手法の有用性を明らかにした.さらに,このようにして得られた二次元磁化特性を有限要素法ベースの磁界解析シミュレータに組み込み,検証モデルを用いて,開発したソフトウェアの妥当性を検証した.
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