研究概要 |
病原ウイルスに親和性の高いタンパク質(ウイルス吸着タンパク質:Virus-Binding Protein, VBP)を活性汚泥中から分離し,このVBPを用いた下水処理水からの病原ウイルス除去技術を実用化することが本研究の目的である.平成13年度には,活性汚泥細菌からポリオウイルス1型に対するVBPを分離することに成功した.本年度においては,VBP遺伝子検索,VBPクローニングおよびVBP固定化技術開発に関する研究を行い,以下に述べる成果を得ている. まず,VBP遺伝子検索に用いる活性汚泥細菌のゲノムDNAライブラリの構築に成功した.構築したDNAライブラリから,コロニーハイブリダイゼーションおよびDNAシーケンシングによりVBP遺伝子を検索したところ,VBPのN末端アミノ酸配列と非常に相同性の高い配列を有する一つのOpen Reading Frame(ORF)を,VBP候補遺伝子として分離することに成功した.また,このORFは807塩基から成り,268残基のアミノ酸から成るタンパク質をコードしていることも明らかにされた.さらに,このVBP候補遺伝子及びコードされているタンパク質は,データベース上に存在しない,新たに発見された遺伝子及びタンパク質であることが明らかにされた. 続いて,分離されたVBP候補遺伝子を用いてVBP候補のクローニングを行った.分離されたORFをプラスミドベクターに組み込み,タンパク質クローニング用大腸菌であるE. coli BL21に導入した.その結果、IPTGによる誘導によりVBP候補の発現に成功した.このVBP候補はN末端にヒスチジンタグを有しており,ニッケルカラムによる1ステップでの精製が可能であることも確認された. 得られたVBP候補のウイルス吸着活性を確認するためにELISAを行ったところ,このVBP候補が確かにポリオウイルス1型に対する吸着活性を有しており,まさにVBPそのものであることが確認された.この結果は,固定化状態のVBPがウイルス吸着活性を有することを示しており,固定化VBPによるウイルス除去技術開発の実現に大きく近づく成果が得られたと言える.
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