研究課題
基盤研究(B)
ポリイオン複合体(PIC)は、繊維、ミクロカプセル、フィルムなどの高度に分子設計され、複合効果を発揮するための新素材として有用である。我々は、有用バイオマスとして広く研究されているカチオン性多糖であるキトサン、およびアニオン性多糖であるジェランガムが新規な複合繊維を形成すること、さらに、この繊維の紡糸法、機械的強度、耐水性、染色性、生分解性などの諸性質が実用的な新繊維材料として極めて有望であることを見いだした。この研究成果をさらに展開し、(i)天然高分子の種々の組み合わせの中で、どれが強靭な繊維を与えるのか、(ii)その強靭さの起因するところは何か、という問題を解き明かしつつ、より高性能な複合繊維を実用化することを目指して以下の研究を行った。1.工業生産のための紡糸装置の開発とPIC繊維織物の作成複合繊維が、連続的に、且つ、大量に得られる紡糸装置をデザインし、試験的な繊維作成を行った結果、低コストと高い安全性、簡便さを兼ね備えた紡糸装置の開発に成功した。研究成果に関する工業所有権を取得した。この技術をもとに、PIC繊維織物の作成初めて成功した。2.酵素および光架橋構PIC繊維の作成と高強度化酵素架橋、特に、キノン架橋、ジチロシン架橋、イソペプチド架橋など、生体高分子に見られる架橋構造形成をヒントに、酵素架橋部位を含む官能基を用いて化学修飾した天然高分子化合物を合成し、PIC繊維の高強度化を試みた。その結果、酵素架橋により、繊維の力学的強度が上昇し、複合材料系の繊維素材としての有用性を明らかにした。天然高分子の水中化学反応によって光反応性基を導入し、光架橋によって高強度化する繊維を作成した。3.ポリアミノ酸複合繊維表面および内部構造のキャラクタリゼーション4.PIC繊維の微細構造を、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、NMRなどを用いて詳細に解析し、機械延伸前後の繊維内部周期構造の変化を明らかにした。この結果から、繊維の強度・伸縮性を自在に発現するための高分子のデザインに関する基礎知見が得られた。この知見をもとに、ポリアミノ酸を複合化し、絹様新繊維の作成に成功した。
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