本研究では、連続乳化重合により高分子ラテックス粒子の粒子径分布の高度な制御法の開発と実用化を目的とし、その方法として、流動・混合や反応系の持っている非線形ダイナミックスをポジティブに捉え、積極的に利用することである。本研究でクリアしようとする課題は以下の通りである。 1)反応系の非線形ダイナミックスを応用した粒子径分布の制御法の確立 2)流動・混合の非線形ダイナミックスを応用した粒子径分布の制御法の確立 3)ダイナミックプロセスのシンセシスに向けた設計モデルと最適化手法の確立 本年度は、連続乳化重合反応中の高分子微粒子の凝集ダイナミックスの解明とその制御について研究を行った。昨年度、撹拌槽型の連続反応装置を用いた場合、反応が定常に達し、重合率が一定になっても、反応装置内に新たに発生する一次粒子が既存粒子に凝集することにより、粒子径分布が大きな時間スケールで変動することを見出した。まず、反応による粒子発生と成長プロセス、凝集プロセス、粒子の排出プロセスを組み合わせた確率論的モデルを構築し、これを用いてシミュレーションを行うことにより、この凝集ダイナミックスの解明を試みた。その結果、今回提案した確率論的モデルは、粒子径分布のダイナミックな変化をよく再現することができ、新しい粒子の発生速度、粒子の滞留時間、粒子の安定性によりこの現象が大きく変化することを見出した。これらの知見により、凝集による粒子径変化の制御には、新しい粒子の発生量が一つの大きな制御因子であるとして、テイラー渦流反応装置を用いて、流動状態を制御し、滞留時間分布を変化させて、水溶性モノマーであるメタクリル酸メチルの連続乳化重合を行い、粒子径分布の制御を試みた。その結果、押し出し性を強くし、供給されたモノマーや開始剤などの原料がすぐに反応器に拡散しないように制御してやれば、新しく発生した粒子が反応装置全体に広がるのを抑制し、比較的粒径のそろった高分子微粒子が得られることがわかった。さらに、流動状態を変化させ、装置内の混合を変化させることにより、粒子径分布を時間的に一定にしたり、変動させることが人為的に可能であることを見出した。
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