研究概要 |
今年度はまず,モデル小腸膜と肝組織の両方について,少なくとも数日間にわたる安定した培養が可能でしかもハンドリングのしやすい灌流培養システムの製作を行った.前年度までで開発したシステムで問題であった小腸膜の水吸収による小腸膜上(内腔側)の培養液枯渇については,シリンジポンプを設定した.また長時間培養が不可能であった肝組織については,装置全体を旋回振盪することで,酸素や栄養などの物質供給を改善した.併せて装置の小型化を行い,通常のCO2インキュベータ中に計4システムを収容することが可能となった. 次に,このシステムを用いて肝細胞Hep G2と小腸細胞Caco-2を灌流培養すると,1週間程度の安定した運転は十分に可能であった.興味深いことに,単独培養時と比較して肝細胞の増殖傾向と高機能化・化学物質刺激による両細胞の解毒酸素の誘導の著しい向上などの非線型的な現象が見られたことである.これらは,量細胞を動じ灌流培養することでしか見られない臓器間相互作用と見られ,同時灌流培養による人体のシステムとしての応答を部分的に再現するものと考えられた. さらに,その毒性発現に解毒酸素群が大きく寄与するベンゾ[a]ピレンをモデル化学物質として実験を行った.その結果,小腸膜を含む場合では,原体濃度の上昇には遅れが見られたが,両細胞の含む場合では解毒酸素の総活性量が極めて大きく,ベンゾ[a]ピレンの究極の毒性物質への変換能が高くなり,その結果,しばらく経過すると,肝細胞の死亡率は両システム共,ほぼ同じとなった. このように,本システムは,システムとしての人体の非線型的は応答を再現する新たな実験システムであることが示された.次年度においては,より詳細な毒性発現メカニズムの解明を進めると共に,このような臓器間相互作用の寄与をも含んだプロセスを速度論的に記述する数理モデルの作成に結びつける予定である.
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