研究概要 |
平成13年度までに作製した模擬小腸膜と模擬肝組織とを生理学的な回路で灌流培養するシステムを用いて,平成14年度においては1週間程度の安定した運転を可能とした.また,模擬毒性物質としてその毒性の発現に小腸や肝臓でのチトクロームP450による代謝活性化を必要とするベンツ[a]ピレンの負荷実験を行った.その結果,小腸と肝組織とが共存するシステムにおいてのみ,小腸及び肝組織両者のP450活性が2-3倍に亢進するという現象が観察された.また肝組織の増殖と例えばアルブミン分泌能のような肝機能の亢進も同時に観察された.これは,単独細胞のみを含むシステムでは見出せなかった現象であり,臓器間の何らかの相互作用によるものと推察された. ベンツ[a]ピレンは小腸のP450によってほとんどが代謝され,その多くは小腸内腔側(体外側)に選択的に排出された.これは小腸での吸収時に毒性物質をある程度無毒化すると同時に体内に吸収しないようにするという生理学的には非常に合理的な現象である.しかしながら一方で,両組織の共存下で両組織の一般的な細胞活性が高まると同時にP450活性が高まり,その結果,上述の小腸の防御作用にも関わらず,ベンツ[a]ピレンの代謝活性化物(非常に強い細胞毒性や発ガン性を持つ)の体内での濃度は,小腸または肝臓のみのシステムに比べて著しく高まり,結果的に小腸膜がある場合に(小腸・肝両者共存下),肝組織のみのシステムに比べて,毒性が高くなるという複雑な現象が観察されるに至った. このように各細胞単独のシステムでは予測できない現象が複合灌流培養にて見られたことは,単独細胞による生物学的な情報の生理学的薬物・毒物動力学モデルによる積み上げでは,生体システムの重要な環境応答を予測できないことを示しており,本研究のような複合灌流培養システムの意義を示すものであると結論できた.
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