研究概要 |
平成14年度までで完成・モデル毒性物質負荷実験を行った小腸・肝組織複合灌流培養システムを用いて,今年度は,同じくモデル毒性物質としてベンツ[a]ピレンを用いて,他の毒性評価系を組み合わせた新規の利用法について検討を行った.すなわち,上記のシステムでその他臓器コンパートメントにおける培養液中の毒性物質の量は,ヒトにおいて小腸からの吸収・肝臓での代謝を経た全血とみなすことができるからである. まずベンツ[a]ピレンの発がん性を指標とした上記システム内での挙動を実験的に解析巣するため,簡便な変異原性試験としてumuテストを採用し,各コンパートメントの変異原性を評価した.正確な評価のためには培養液を10-100倍に濃縮する必要があったが,その結果,HPLCによる究極の毒性発現物質の前駆体の濃度とumuテストで検出される変異原性はほぼ良好に一致した.この究極の毒性発現物質の挙動を記述する薬物動力学モデルを構築し,共培養によって高まった薬物代謝酵素の影響を取り入れることで,毒性物質生成の時間変化をおおよそ数理モデルで記述することができた. さらに,ベンツ[a]ピレンの一般毒性を評価するために,急性毒性の簡便な評価手法として広く用いられているマイクロトックス法による同様の解析を行った.その結果,変異原性活性とほぼ同様にHPLCで定量された究極の毒性物質の濃度とほぼ毒性が一致したが,一方でそれでは説明のつかない毒性も検出された.ベンツ[a]ピレンの代謝の結果生じるキノン類についての毒性が近年報告されており,その寄与が疑われた. 以上,本システムを吸収代謝シミュレータとして,そこで得られる培養液について,別の高感度なバイオアッセイを適宜組み合わせるという,新たな利用方法の例を示すことができた.
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