研究概要 |
逆相分配クロマトグラフィでは,主に分離対象分子の極性や疎水性を識別することを目的としており,そのため単純な有機相がシリカなどの表面上に固定化されている場合が多い。そのため,極性差がわずかしかない異性体の分離は困難であり,とくに光学分割に適用するためには,溶離液中にジアステレオマー化剤を添加するなどの工夫が必要である。したがって分離剤そのものに高い選択性を付与するためには,固定化有機分子に直接機能を求めるのが一般的であり,多数の研究例がある。これに対して申請者らは,有機分子が自己組織化することよって発現する超機能をシリカ上に固定化し,有機分子単独では発現しえない特殊な選択性をいくつか報告してきた。本年度は,この一連の研究目標において,自己組織化による高い光学活性の発現,ならびに官能基の高分子化による機能変換について検討した。とくに後者においては,新規なシリカグラフト化剤としてポリビニルピリジン誘導体を開発し,様々な特異機能が発現することを確認した。研究成果を要約すると,(1)シリカ系分離剤の欠点として有機分子で被覆しえない残存シラノール基が分離特性に悪影響を及ぼすが,ポリビニルピリジンこのシラノール基と相互作用し,マスキング効果を示すことが明らかになった。(2)有機相としてのポリビニルピリジンは,ゲスト分子の疎水性の差にはきわめて鈍感で,逆にπ電子数に敏感であることがわかった。このことにより,従来の逆相分配クロマトグラフィでは達成できない特殊な選択性が発現する。(3)その具体的な例として,多環芳香族に対する選択性が優れており,分子の平面性や形状をとくに識別することができる。(4)選択性の機構を異なる置換基定数をもつゲスト分子に対して調査したところ,ポリビニルピリジンが電子供与体として作用していることが明らかになり,そのため電子吸引基を有する置換体やオルト異性体等に対しても特異な分離特性を示すことを確認した。この性質を利用すると,ポリ塩化ビフェニル等の環境ホルモンに対して高い選択性を得ることができる。
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