研究概要 |
遷移金属錯体触媒を用いる環構築反応は古くから活発に研究が行われており、その代表的な例としては、アセチレンの三量化反応、アセチレンとオレフィンとの[2+2+2]および[2+2]付加環化反応、アセチレン、オレフィンおよび一酸化炭素の[2+2+1]共環化反応(Pauson-Khand反応)等が挙げられる。新しい環構築反応を開発することは、天然物および機能性有機材料等に含まれる環状構造を直接的かつ簡便な手法で構築できる可能性を有しており、有機合成上極めて重要な検討課題である。当研究室では、これまでに反応性ルテナサイクル錯体を鍵中間体とする種々の新規環構築反応の開発に成功しており、本研究ではさらに、Cp^*RuCl(cod) [Cp^*=pentamethylcyclopentadienyl;cod=1.5-cyclooctadiene]錯体触媒存在下、2分子の末端アルキンと1分子のアセチレンジカルボン酸ジメチルとの交差[2+2+2]付加環化反応によるo-フタル酸エステル誘導体の高効率合成法を開発した。通常、アルキンとアセチレンジカルボン酸エステルとの交差[2+2+2]付加環化反応では、1:2付加物である1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸エステル誘導体が主生成物として得られるが、本反応では、2:1付加物であるo-フタル酸エステル誘導体のみが良好な収率で得られる点が興味深い。本反応は、アルキン1分子とアセチレンジカルボン酸エステル1分子とのルテニウム上での酸化的環化反応によるルテナシクロペンタジエン中間体を経由して進行していると考えられ、芳香族ジカルボン酸(o-フタル酸)誘導体の触媒的新合成法である。 一方、ルテニウム錯体触媒を用いるアクリル酸エステルのオリゴメリゼーションについて検討した結果、Ru_3(CO)_<12>/Et_3N触媒系を用いた場合には、アクリル酸エステルの二量化反応が高位置および高立体選択的に進行し、対応するtail-to-tail二量体が高い基質/触媒比で良好な収率で得られることを見出した(収率56%,触媒に対するTON=2091)。さらに異種アルケンの共二量化反応として、新規ルテニウム触媒系(RuCl_3(2,2':6',2''-terpyridine)/Zn)を用いるアクリル酸エステルと2-ノルボルネンとの鎖状共二量化反応を開発し、対応するexo-trans体が高位置および高立体選択的に良好な収率で得られることを見出した。また、本触媒系にホスフィン配位子を添加することにより、2,5-ノルボルナジエンとの鎖状共二量化反応が良好に進行することも明らかにした。
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