研究概要 |
芳香族ならびに脂肪族ポリカルボン酸誘導体は、工業原料中間体として重要であり、その高効率合成法の開発が望まれている。本研究では、我々が先駆的に独自の方法で開発してきたルテニウム錯体の特異な触媒機能をを利用し、以下に示すポリカルボン酸誘導体の新合成法を開発した。 1.ルテニウム錯体触媒を用いるアセチレン類とアリルアルコール類との新規環化芳香族化反応 当研究室ではこれまでに、低原子価ルテニウム錯体触媒を用いるアセチレン類とオレフィン類との環化([2+2]付加環化)および鎖状共二量化反応を開発し報告している。本研究ではさらに、反応性メタラサイクル錯体の一つであるルテナシクロペンテン中間体を経由する新合成反応の開発を目的として検討を行った。その結果Cp*RuCl(cod)/PPh_3[Cp*=pentamethylcyclopentadienyl,cod=1,5-cyclooctadiene]触媒存在下、アセチレンジカルポン酸ジメチル2分子とアリルアルコール類1分子との環化芳香族化反応が良好に進行し1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸誘導体が高収率で得られることを見出した。本反応は、芳香族ポリカルボン酸誘導体の新合成法である。 2.ルテニウム錯体触媒を用いるシクロプロペノン類の新規開環カルボニル化/二量化反応 メタラサイクルは、環状化合物の金属への直接酸化的付加、低原子価遷移金属上での不飽和有機化合物の酸化的環化、シクロメタル化、メタセシス反応等、種々の方法で発生可能であり、その反応性は極めて興味深い。本研究では、分子内にカルボニル基と不飽和結合を併せ持ち、かつ適度な歪を有する環状化合物である「シクロプロペノン」類を基質に選び、そのカルボニルα-位炭素-炭素結合の切断による開環、生成したルテナシクロプテノン中間体への一酸化炭素の挿入、さらにもう1分子のシクロプロペノンとの反応による新規機能性有機分子「ピラノピランジオン」誘導体の触媒的新合成法の開発に成功した。本研究で合成した「ピラノピランジオン」は、全て新規化合物であり、同一分子内に不飽和結合と2つのエステル基を有する芳香族性を有することから、その物性および高分子材料モノマーとしての利用が期待される。 3.ルテニウム錯体触媒を用いる新規[2+2+2]付加環化反応によるo-フタル酸誘導体の高効率合成法 Cp^*RuCl(cod)錯体触媒存在下、2分子の末端アルキンと1分子のアセチレンジカルボン酸ジメチルとの交差[2+2+2]付加環化反応によるo-フタル酸エステル誘導体の高効率合成法を開発した。通常、アルキンとアセチレンジカルボン酸エステルとの交差[2+2+2]付加環化反応では、1:2付加物である1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸エステル誘導体が主生成物として得られるが、本反応では、2:1付加物であるo-フタル酸エステル誘導体のみが良好な収率で得られる点が興味深い。本反応は、アルキン1分子とアセチレンジカルボン酸エステル1分子とのルテニウム上での酸化的環化反応によるルテナシクロペンタジエン中間体を経由して進行していると考えられ、o-フタル酸誘導体の触媒的新合成法である。 4.ルテニウム錯体触媒を用いるアクリル酸エステルのオリゴメリゼーション 一方、ルテニウム錯体触媒を用いるアクリル酸エステルのオリゴメリゼーションについて検討した結果、Ru_3(CO)_<12>/Et_3N触媒系を用いた場合に、アクリル酸エステルの二量化反応が高位置および立体選択的に進行し、対応するtail-to-tail二量体が高い基質/触媒比で良好な収率で得られることを見出した(収率56%,触媒に対するTON=2091)。さらに異種アルケンの共二量化反応として、新規ルテニウム触媒系(RuCl_3(2,2':6',2''-terpyridinel/Zn)を用いるアクリル酸エステルと2-ノルボルネンとの鎖状共二量化反応を開発し、対応するexo-trans体が高位置および立体選択的に高収率で得られることを見出した。
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