研究概要 |
本研究の最終目的は、異種共役ジエン間でのDiels-Alder反応の基質選択性の制御を行うことにある。特定の共役ジエンを触媒的に活性化する手法開発の前段階として位置付けられるモデル反応として、鎖状の共役ジエンである2-メチル-1,3-ブタジエンあるいは2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンを選択して、これらをルイス酸触媒で活性化する事とした。求核剤としてはC, N-ジフェニルニトロンあるいはシクロペンタジエンを用いた。 ルイス酸触媒としては、まず、通常アルケンのハロラクトン化やハロエーテル化反応の活性化に用いられるBr_2,I_2などのハロゲンを用いたが、顕著な触媒作用は観察されなかった。そこでハロゲン化物イオンを非配位性の対アニオンに置換してより強力な求電子イオンであるハロゲニウム(I_2/AgCIO_4)を発生させて用いたが、やはり効果はなかった。さらに、2,4,6-lutidine-I/CIO_4などように、ハロニウムイオンをピリジニウムイオンとして非局在化して有機溶媒に対す溶解度を高め、同時にアルケンへの反応性を高める試みも、顕著な活性効果を示さなかった。嵩高いシリルカチオンを用いて共役ジエンに求電子付加をさせ、その際生じたアリルカチオン中間体をC, N-ジフェニルニトロンあるいはシクロペンタジエンなどの求核剤で捕捉し、その結果求核剤側に生成したカチオンセンターをアリルシランが分子内攻撃して環化させる触媒反応を立案した。しかし現在まで、シリルカチオンの触媒作用を引き出すことはできていない。さらに、PhSOH, PhSeOH, PhSCI/AgBF_4などのカルコゲニウム系のルイス酸触媒、および嵩高い配位子をもつために有機溶媒中に可溶な銀(I)イオン系の触媒などの触媒作用を調べたが、やはり顕著な触媒作用は認められなかった。 そこで、アリルカチオン中間体を意図的に発生させて、これに対する共役ジエンあるいはニトロンの反応性を調べた。アリルアセタートやカーボナートに0価のパラジウムを反応させてアリルカチオン中間体を発生させ、これとC, N-ジフェニルニトロンあるいはシクロペンタジエン途の反応を検討したが、特筆すべき活性化を達成することはできなかった。強い配位子であるニトロン双極子あるいは共役ジエンが2価パラジウムに強く配位して、その触媒活性を著しく低下させたものと考えている。最近、ヘテロ置換基をもつアルケンやアルキンがルイス酸触媒の配位を受けて選択性発現を起こすことが観察されてはいるが、やはり、純粋な炭化水素系基質だけでは、ルイス酸触媒の配位による効果的な活性化は極めて困難であることが明らかとなった。
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