研究概要 |
環境との調和を目指す有機合成プロセスの一つとして、分子状酸素を温和な条件下で酸化剤として用いる手法の開発が要請される。Pd^<2+>/Cu^<2+>塩の組み合わせば酸素分子の活性化を引き起こす環境調和型触媒として広い用途を持つとの観点から、本研究では以下の目的を設定した.すなわち,銅原子上で分子状酸素を活性化させ,パラジウムに配位したアルケンにこの酸素分子を移行させる新手法を開発する.このために,以下の考え方を用いた.アミド系化合物はCu^<2+>と作用し酸素分子を活性化させるとの知見を既に得ている。そこで,α-フェニルエチルアミンと塩化オキザリルから得られるオキサミドを組み込んだ触媒系(PdCl_2/Cu(OAc)_2/オキサミド)を用いて,水を求核剤とする1-デセンのWacker酸化を検討した.その結果,従来法に比べて触媒効率が明らかに上昇することを見出した.しかし,この反応では1-デセンのC-2が酸化されメチルケトン体のみが生成し,対応するアルデヒド体は得られなかった.そこで,末端位(C-1)を選択的に酸化させるために,立体的に嵩高いt-BuOHを求核剤に用いたところ,C-1位が選択的に酸化させることが判明した.例えば,PdCl_2(CH_3CN)_2とCuCl_2との組み合わせを触媒に用い,ジメトキシエタン(DME)中で1-デセンにt-BuOHを反応させるとC-1位が酸化され,対応するアルデヒドが68%の選択性で生成することを見出した.MeOHを求核剤に用いた場合は,C-2位の酸化によりメチルケトン体のみが生成し,対応するアルデヒド体は得られなかった。この位置選択性の変化を,相互作用軌道対(P10)解析法より明らかにし,軌道間のOverlap Populationの総和(ΣOP)の値が反応を予測する指標となることを明らかにした.
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