キラルな溶媒である2-メチル酪酸エチルのラセミ体を用いてサドル型ポルフィリン/4-Brマンデル酸複合体の自然分晶を行ったところ、分晶した結晶中に2-メチル酪酸エチルが不斉選択的に取り込まれ(鏡像体過剰率は50%)た。次に、あらかじめキラルでない溶媒から分晶させた結晶を2-メチル酪酸エチルの蒸気に接触させたところ、数時間で結晶内の溶媒分子が交換し、不斉選択的に2-メチル酪酸メチルが取り込まれることが分かった。この場合も再結晶から得られた場合と、不斉選択性、鏡像体過剰率共に同じ値が得られ、結晶構造を崩さずに結晶のキラル空間に取り込まれる分子が不斉選択的に交換することが示された。次に、新たな不斉空間や反応活性サイトの構築を目的として、配位結合を利用したサドル型ポルフィリン環状ダイマーの設計を試みた。ピリジル基を有するサドル型ポルフィリンとある種のプラチナ錯体を等量混合した系についてCSI-MS測定を行ったところ、環状ダイマーの多価イオンに相当するシグナルが得られ、目的化合物の形成が確認できた。さらに、光学活性なマンデル酸を用いて滴定した結果、円偏光二色性スペクトルの強度変化から、ダイマー中の一方のポルフィリンへのマンデル酸の錯化により、他方のポルフィリンの不斉が誘起されることが示唆された。次に上下方向にピリジル基を有するキラルサドル型ポルフィリンとプラチナ錯体を等量混合した系において、プラチナへのピリジル基の配位によりポルフィリンが積層したカラム状構造が生成し、サドルポルフィリンに対し触媒量の光学活性マンデル酸の付与によりCD強度の大幅な増加が観測された。これは、末端のサドルポルフィリンに対するマンデル酸の錯化により、リンカーである剛直なプラチナピリジル錯体を介して隣接するサドルポルフィリンの不斉誘起が逐次進行し、キラリティーの増幅が起きたためと考えられる。
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