本研究は均一系遷移金属触媒を、申請者が従来行ってきた配位子系を用い、あるいはそれを展開して全く新しい触媒系を確立し、それを元に工業化触媒の開発を目指すものである。以下に得られた成果を簡単に述べる。 1.かさ高いボレートを用いてマンガン錯体を合成し、オレフィン類の重合を行うと立体規則性のある重合生成物が得られた。これは7族の金属を用いた初めての成功例である。現在、最適条件の検討を行うとともに、電子共鳴分光法などを用いてその反応機構を追求している。さらに、反応中間体の構造を明らかにするために、マンガン-アルキル錯体の合成も行っている。酸化重合触媒の計算化学的検討も併せて行った。 2.種々のかさ高さの違うピラゾレート多核錯体を合成し、構造決定を行った。これを用いて、共役付加反応を行った。 3.単核銅1価錯体と単体硫黄との反応で2核のジスルフィド錯体が得られ、その構造と詳細な電子構造の解明を行った。 4.α-ケト酸を活性中心に持つ酵素の反応機構を解明するためにモデル錯体を用いた反応速度の詳細な検討を行った。この結果、電子押しの置換基を導入すると水酸化反応は速くなり、また、安息香酸よりα-ケト酸を用いた方が、反応が速かった。このことから、酵素内でα-ケト酸を用いる有用性が再認識できた。配位子に電子吸引性の塩素を導入し、同様な反応を行うと反応速度が遅くなった。このことから、求電子性の鉄4価オキソの存在が確かめられた。 5.トリス(ピラゾリル)メタンを配位子として遷移金属錯体の構造、性質の追及を行った。トリス(ピラゾリル)ボレートを配位子とした錯体との構造及び性質の違いを考察した。また、これを用いて、酸素錯体の合成を行い、詳細な性質の検討も併せて行った。 以上のように、多くの成果を得ることができた。
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