研究概要 |
パーフルオロヒドロキシル基を有する単量体とスピロピランメタクリレートとの共重合体を合成した.両単量体の成分比がほぼ等しい共重合体は,トルエンやクロロホルムのような非極性溶媒中で完全不溶であるが,メタノールや水/メタノール(水が主成分)ではゲルとなった. このゲルに鉛(II),亜鉛(II),ニッケル(II)などの重金属イオンの水溶液を加えると,ゲルが青から黄へと色調変化するとともにこれらイオンとの錯形成が観測された.さらに,420nm以上の可視光を照射するとゲルは白色となった.溶液中でこのゲルへの吸着に関与しない金属イオン(フリーイオン)の溶解量を電気化学的に(例えば,矩形波ボルタンメトリ)定量できる.具体例として,このゲルにおけるスピロピラン部位数の約50分の1の鉛イオンを加えると,約25%の鉛イオンが光照射により可逆的にゲルに吸脱着した. 光スイッチ型の重金属イオン吸着剤としてこの高分子ゲルを繰り返し用いる場合,光照射による光劣化と溶媒からの化学劣化の検討が必須である.スピロピランは従来より,高エネルギーの紫外光を照射して閉環体から着色した開環体に光異性化するため,副反応として起こる光分解による劣化が大きな課題であった.このゲルでは重金属イオンと錯形成した開環体が暗所下で形成されるため紫外光照射を必要としない.閉環体に戻す際に用いる可視光は分子分解を引き起こすほど高エネルギーではなく,実際の繰り返し照射実験からもスピロピランの分子劣化はほとんど認められなかった.
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