研究課題
基盤研究(B)
カイコをはじめとする鱗翅目昆虫では受精する有核精子と核を持たず受精しない無核精子が存在する(二型精子)。本研究では、倍数体では無核精子、高温処理した大造では有核精子のみが機能することを利用して二型精子の個体別分離技術を開発した。交尾ならびに人工授精いずれの方法を用いても受精卵が得られるという特徴を生かし、この実験系により無核精子が鱗翅目昆虫の受精に必要不可欠であることを世界で初めて実験的に証明した。また、二型精子の雌交尾器内における行動を観察し、無核精子は交尾嚢から受精嚢へと移動できるのに対し、有核精子単独ではこの行動が観察されないことを明らかにした。人工授精により雌交尾器へと供給される有核精子は精包内の無核精子の恩恵にあずかることなく受精できない。これは、交尾嚢内での両精子の混合が有核精子の受精に重要であることを示している。分離した二型精子の一方だけを凍結、もしくは両精子凍結保存-融解し、人工授精実験を行った。この結果、凍結-融解精子の受精能力低下は、大部分が無核精子の凍結-融解耐性によるもので、一部有核精子の量や質によっても変化することが明らかになった。凍結保存によるカイコ遺伝資源保存を念頭に置いて、通常の精子(有核精子と無核精子を混在する)凍結後、人工授精で受精率が極端に低下する(ほぼ0%)品種を用いた、人工授精実験を行った。凍結-融解もしくは非凍結の無核精子を混合したところ凍結保存精子による受精率が確実に向上する。しかしながら、無核精子の機能には大きなばらつきあり、無核精子作成に用いる系統の選抜などさらなる検討が必要と考えられた。以上の結果から凍結保存精子と無核精子の人工授精によりカイコ品種の系統維持を行える礎が完成した。
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