研究概要 |
本研究の目的は木造家屋などの木材構造部材の微生物劣化、特にシュウ酸を多量に分泌する銅耐性木材腐朽菌(オオウズラタケなど)の代謝機能を解析・解明することによって、その木材腐朽を生化学的レベルで制御しようとするものである。具体的には基礎生化学的知見を基に、木材腐朽菌の酵素系阻害反応を利用した新規防腐材選択システムである。まず、シュウ酸生合成が、グリオキシル酸回路とTCA回路と連動しているという新規なメカニズムを発見することに成功し、米国科学アカデミー紀要(Erman et al., PNAS,98,11126-1130,2001)に発表した。次に、この代謝経路が木材腐朽菌にかなり一般的に存在することを明らかにした。さらに、この代謝メカニズムの枢軸にはイソクエン酸リアーゼ(ICL)が位置付けられることがわかったので、学術観点からまずグリオキシル酸回路の鍵酵素でもあるICLとリンゴ酸合成酵素の精製を木材腐朽菌については初めて達成した。また、TCA回路の鍵酵素であるイソクエン酸デヒドロゲナーゼを腐朽菌からはじめて精製することに成功した。これらの研究成果を発表したインパクトから、「化学と生物」および「木材保存」編集部から解説と総説依頼があり、本研究の成果を一般的読者に広く啓蒙することができた。さらに、特筆すべきことは、銅耐性菌オオウズラタケの子実体形成を液体培養系で初めて成功した。 他方、鍵酵素ICL阻害剤のスクリーニングは三共化学研究所のグループの協力を得て、約10000点の試薬から、第一次、二次の選抜を経て、有力な試薬、1-クロロー1-クロロメチルー1,2-エタンジカルボン酸、エチレンジアミンとその誘導体7種類が選抜された。これらの試薬の応用性についてはコストパフォーマンスなど実用的観点から更に検討を進めていく必要があることがわかった。
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