内湾養殖場における底層貧酸素水の湧昇予知システムの開発

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13556030
• 研究機関: 東京海洋大学(水産)
• 研究代表者: 松山 優治 東京海洋大学(東京水産大学), 海洋科学部, 教授 (00092594)
• 研究分担者: 川上 高志 日油技研工業株式会社, 開発部, 部長(技術職) ; 北出 裕二郎 東京海洋大学(東京水産大学), 海洋科学部, 助手 (50281001) ; 石丸 隆 東京海洋大学(東京水産大学), 海洋科学部, 教授 (90114371) ; 杉山 正憲 沼津市, 内浦漁業協同組合, 係長(技術職)
• キーワード: 沿岸湧昇 / 底層低酸素水 / 酸素欠乏 / 水質計 / リアルタイム・モニタリング / 予知システム / E-mail / 警報システム

研究概要

本研究では、内湾養殖場での魚類の大量瀕死を最小限に抑えるため、漁業関係者に広く使用されるような簡便な観測システムの開発と予報技術の確立を目指して研究を進めてきた。海況・水質をリアルタイムでモニタリングできるシステムによる観測は、これまでの内浦湾での水質計測センサー(pH、伝導率、濁度、溶存酸素、水温、深度等)による2年半の運用に加え、海洋の物理構造を把握できる多層水温計測システムにより平成14年7月から継続して行われた。その結果、養殖魚の衰弱・瀕死は、(1)冬季には黒潮系暖水の進入、(2)夏季には内部潮汐によって引き起こされることが明らかとなった。本研究により開発された観測システムは、他の海域へ適用する場合、事前に適切な設置場所を決めることにより、物理環境の変動予報と漁業被害の軽減において十分な効果を発揮するものと期待できる。
さらに、内浦湾仝体の海況把握のために湾奥部でのモニタリングと平行して平成13年以降、3年間断続的に、ADCPおよびメモリ式温度計による係留観測を実施してきた。その観測記録を解析した結果、(1)湾内では半日周期内部波が地形により散乱することにより、そのエネルギーの20%程度が散逸していること、(2)内部潮汐に伴う強いシアにより密度逆転が引き起こされ、それによる鉛直渦拡散係数が10^<-4>m^2/sのオーダーであること、(3)内浦湾内では内部潮汐が非常に発達することから湾内の海底付近には内部潮汐によって引き起こされる残差流が発見されたこと、の3つの海洋学的に重要な知見が得られた。これらの知見はいずれも海水の混合や湾内水の循環に関係するもので、養殖場や隣接する河川等から流出した物質がどのように湾内で拡散して内湾の水環境へどのような影響を及ぼすかを評価する上で非常に重要なものである。

研究成果

• [文献書誌] Kitade Y., M.Matsuyama, J.Yoshida: "Distribution of Overturn Induced by Internal Tides and Thorpe Scale in Uchiura Bay"Journal of Oceanography. 59. 845-850 (2003)
• [文献書誌] 井桁庸介, 北出裕二郎, 松山優治: "台風8818号の通過に伴い発生した相模湾の急潮に関する数値実験"海の研究. 12(6). 603-617 (2003)
• [文献書誌] 菰田 順, 松山 優治: "移流項の差分化にUTOPIAを用いた数値計算と大阪湾への適用"海洋調査技術. 15. 1-15 (2003)
• [文献書誌] 北出裕二郎, 日下朋子, 川村有二, 丹羽淑博, 野田明, 林敏史, 濱田浩明, 山崎紗衣子, 小池義夫, 松山優治: "南太平洋西部における密度逆転の分布から求めた鉛直渦拡散係数の緯度変化"東京水産大学研究報告. 90. 13-21 (2003)
• [文献書誌] 松山 優治: "海洋の内部波"海洋と生物. 25(5). 319-322 (2003)
• [文献書誌] 北出 裕二郎: "沿岸域での内部波"海洋と生物. 25(5). 330-336 (2003)
• [文献書誌] 北出裕二郎, 松山優治, 岩田静夫: "内浦湾奥部における水温の短周期変動とそれに伴う溶存酸素の変動"沿岸海洋研究. 41(2). 137-141 (2004)
• [文献書誌] 松山優治, 川村有二, 北出裕二郎: "沿岸域での内部波の鉛直構造の観測"月刊海洋. 号外36. 66-72 (2004)