研究概要 |
[目的] シアル酸は、糖鎖や糖脂質などの複合糖質の結合糖鎖の末端に位置し、細胞間や物質間の認識性に対して重要な分子である。我々は、最近ヒツジ初乳中に3'-シアリルラクトース(SL)のラクトン体を発見し、感染防御因子と推定された。そこで、本ミルクオリゴ糖ラクトンを大量調製する安全な方法を構築し、それを食品に抗インフルエンザウイルス因子として添加し、高度利用することを目的とした。 [方法] 1 ウシ初乳からの3'-SLラクトンの大量調整法:市販の飼料用脱脂ウシ初乳粉末の溶媒抽出、活性炭クロマト、イオン交換クロマト、氷酢酸でのラクトン化、およびイオン交換クロマトを組み合わせて、3'-SLラクトンを調製した。2 糖加水分解酵素の逆反応を用いた大量調製法:β-ガラクトシダーゼ(B.circurans)またはβ-グルコシダーゼ(Thermus Z-1)をラクトースに作用させ、遊離したガラクトース(Gal)残基をシアル酸(NeuAc-Na)に転移させることで、大量にシアリルオリゴ糖の調整を試みた。3 3'-SLラクトンのシアリダーゼ抵抗性試験:ウイルス、細菌および腸管シアリダーゼを試験した。 [結果と考察]安全な試薬や方法を用いて、ウシ脱脂初乳粉末100gより12mgの3'-SLラクトンの調製に成功した。この手法はプラントをスケールアップすれば、さらなる大量調整が可能であった。化学構造は、^1H-NMRにより確認した。また、β-ガラクトシダーゼにより天然界には存在しないGa 1 β 1-7NeuAcやGa 1 β 1-3 Ga1 Ga 1 β 1-7NeuAcなどの新規オリゴ糖が製造できた。これらのオリゴ糖の氷酢酸によるラクトン化を試みた所、3'-SLは容易にラクトンに誘導できたが、Ga1-NeuAcタイプのオリゴ糖はラクトン化しなかった。また3'-SLラクトンはNewcastle病ウイルス、Vibrio cholerae,Salmonella typhimurium, Arthrobacter ureafaciensおよびヒト腸管シアリダーゼの全ての抵抗性を示した。これにより、初乳中に含まれる3'-SLラクトンは腸管に留まり、インフルエンザウイルスや細菌のシアリダーゼを不活性化する抗病性因子であることが初めて確認され、その利用性に道が拓かれた。
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