種子油は食用としてだけではなく工業原料としても利用されるので、より多くの油を生産することが期待されている。油の主成分である脂肪酸はプラスチドで合成される。この合成速度は鍵酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼで調節され、この酵素を増加させると脂肪酸合成が促進されると推定されている。本研究ではこの酵素を増加させるため、遺伝子を操作し、得られた形質転換タバコの脂肪酸含量を測定した。 本酵素は4種類のサブユニットからなる。3種類の核ゲノムコードタンパク質と1種類の葉緑体ゲノムコードタンパク質とからなる。これまでの実験で葉緑体ゲノムの遺伝子accDの発現量が少なく、そのために酵素量が少ないことが示唆されたので、accDの発現量だけを増加させることを試みた。すなわち、accDのプロモータを削除し、多量発現を指令するrrnプロモータと置換した。形質転換は相同組換えで実施した。 得られた形質転換タバコは野性株と同様に育った。しかし、葉の寿命が野性株のものより延びた。またアセチルCoAカルボキシラーゼ量が増加した。形質転換体では葉と種子の脂肪酸含量が野性株より増加した。また種子数が野性株よりも増加した。葉の寿命が延び、光合成が盛んに行われるため光合成産物が増加し、そのため種子数が増加したと推定される。この方法は脂肪酸を増加させるだけではなく、種子数を増加させたので、植物の生産力を飛躍的に向上させた。将来さまざまな栽培植物にこの方法を適用することにより、種子油を増産させることが可能になるであろう。
|