脂肪酸合成には主に二つの酵素が必要である。アセチルCoAからマロニルCoAを生成するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)と脂肪酸合成酵素である。中でもACCaseは鍵酵素であり、脂肪酸合成の最初のステップを触媒し、油合成量を決めている。したがって、この酵素を増やせば、油含量も増えると考えられる。多くの植物では、この酵素は四つのサブユニットからなり、その一つは葉緑体ゲノム、残りは核ゲノムにコードされている。これまでの研究で葉緑体コードの遺伝子accDは、発現量が少ないことがわかっている。強力なプロモーターをもつaccD遺伝子を作り、それを葉緑体形質転換法で葉緑体に入れれば、油含量も増えると考えられる。この仮説を実証することが、この研究の目的である。葉緑体形質転換の結果、次のことがわかった。 1.得られた形質転換体は野生型と同様に育った。 2.accDタンパク質の量の増大によってACCaseの量も増大した。このことは、ACCaseの量を決めるメカニズムの一つとして、タンパク質の会合の段階での制御があることを示唆している。 3.脂肪酸含量が葉において増大したが、根ではこれは観察されなかった。 4.形質転換体の葉で、モノガラクトシルジアシルグリセロール量の増加が観察された。 5.葉の寿命の延長と種子数の2倍の増加が観察された。結果として、形質転換体は、野生型と比べて2倍量の脂肪酸を生産した。 将来、この代謝工学による方法を油糧作物に適用することにより、種子油を増産させることが可能になるであろう。
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