昨年度のクローディン-1ノックアウトマウスに続き、本年度はクローディン-5ノックアウトマウスの作製に成功した。脳血管のTJの主要構成蛋白質であるクローディン-5は、ドラッグデリバリーという観点から重要であると考えられる血液脳関門(blood-brain barrier ; BBB)に直接関わっていると考えられていた。 クローディン-5ノックアウトマウスは、メンデルの法則にしたがって生まれてきたが、生後10時間以内に徐々に元気がなくなり、すべてが死亡した。しかし、脳血管の発生・形態には異常がなかった。そこで、この脳血管内皮細胞のTJ(すなわちBBBの本態)の透過性を検討するために、マウスの心臓から分子量約600ダルトンのビオチントレーサーを還流し、脳実質への進入を調べた。正常マウスの中枢神経系(CNS)ではトレーサーは常に血管の中にとどまったが、クローディン-5ノックアウトマウスでは、還流後1分でも既にトレーサーは血管の外に漏れ出していた。しかし、きわめて興味深いことに、このBBBの破綻は、分子量1000ダルトン以下の物質だけに対して観察され、高分子量物質に対するBBBは正常であった。すなわち、クローディン-5を欠いたTJは、低分子量物質だけを通す「分子篩」のような働きをしていることが明らかになった。 このような分子量依存性のBBBの破壊は、当然、出血や浮腫を引き起こさない。したがって、もし、人間でも脳血管のクローディン-5の機能を人為的に一時的に抑えることができれば、全く新しいCNSへのドラッグデリバリー法の開発につながるかもしれない。脳腫瘍も含めた種々のCNS疾患に有効とされる化学物質の9割以上がBBBを越えられないために実用化できないでいる現状を考えるとこの方向の研究の発展が期待される。
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