研究概要 |
近年トリ型インフルエンザを含め、インフルエンザ感染が国際的に問題となっている。インフルエンザ感染の治療には、これまでウイルスの出芽を阻止するウイルス膜上のノイラミニダーゼに対する阻害剤が開発されているが、ウイルスの細胞内侵入を阻止する感染トリガープロテアーゼ阻害剤が注目されている。3年間に渡る研究により、ウイルスの細胞内侵入時に必須な、宿主側の感染トリガープロテアーゼとして、これまでに明らかにされたTryptase Clara以外にMini-Plasmin, Ectopic anionic trypsin, TC30, TMPRSS7が明らかにされた。これらのプロテアーゼはそれぞれのウイルス株に対する親和性を異にして、ウイルスの増殖を規定している。さらにこれらのプロテアーゼは、生理的条件下でプロテアーゼ受容体に結合し気道分泌制御に関与していると推定された。これらのプロテアーゼの中には、ウイルス感染を発端として発現が著明に増加するEctopic anionic trypsinや肺での炎症の結果生じるMini-Plasminが存在する。Trypsinは、同じく感染に伴って発現増加するMatrix Metalloprotease-9と共に肺炎の増悪,組織リモデリングに関与した。また炎症局所で多量に産生されたMini-Plasminは、血液を介して脳の血管内皮に運ばれて蓄積し脳浮腫を引き起こす事が明らかにされた。このように宿主の気道に分布するプロテアーゼは、ウイルス感染トリガープロテアーゼとして働くだけでなく肺炎増悪、インフルエンザ脳炎・脳症にも関与していることが明らかとなった。さらにインフルエンザ脳症の疾患感受性遺伝子として、ミトコンドリアマトリックス内の脂肪酸代謝酵素のSNPが同定された。これらの患者ではエネルギークライシスの結果、細胞膜上でMini-Plasmin結合蛋白質として作用するVoltage-dependent Anion Channelの脳血管内皮細胞での発現増加が誘導され、その結果Mini-Plasminの蓄積と血液脳関門の破壊が生じる機序が明らかとなった。以上を背景として、それぞれの感染トリガープロテアーゼ阻害剤のスクリーニングを行い、ノイラミニダーゼ阻害剤に続く抗インフルエンザ薬を検討している。
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