ヒトの疾患において、病因遺伝子の異常な活性化または不活性化が病態に直接関わる例が多数知られている。また、遺伝子治療ベクターなどが宿主細胞内でしばしばメチル化を受けて不活性化される。細胞内の遺伝子発現を選択的に人為的に操作できる技術として、クロマチン変換による新しい標的型遺伝子操作技術の開発を推進した。具体的には、[1]メチル化DNA結合タンパク質の転写抑制ドメインを用いた転写抑制技術、[2]DNAメチル化酵素の活性領域を用いた恒久的な転写抑制技術、[3]転写活性化ドメインを用いた遺伝子の活性化技術に取り組んだ。[1]発がんを促進する転写因子E2F1のDNA結合ドメインとMBD1およびMeCP2の転写抑制ドメインを連結したキメラ蛋白質を細胞内で発現させて、E2F1の標的遺伝子であるサイクリンDのプロモーター活性を低下することができた。[2]転写因子のDNA結合ドメインとDNAメチル化酵素活性領域を連結させた標的型メチル化酵素の開発に取り組んでいる。メチル化酵素が作用するCpG配列との位置的な関係、標的遺伝子が新規にメチル化されるか否か、メチル化が獲得された場合に体細胞分裂で安定に維持されるかについて検討中である。がん細胞の増殖を阻止を目標にしており、プラスミドおよびウイルスベクターを用いた幅広い転写操作技術としての応用を目指している。[3]転写活性化ドメインを用いた遺伝子の活性化技術についても、プロモーター再活性化技術に取り組んでいる。また、メチル化DNA結合タンパク質MBD1の転写抑制機構として、1)新規のポジティブメディエーターMCAFを阻害することで転写開始を直接抑制すること、2)ヒストンのメチル化酵素・脱アセチル化酵素との協働で転写抑制すること、3)塩基除去修復酵素と相互作用することでゲノム安定性に関わることを見出した。p16などの癌抑制遺伝子のプロモーター領域のメチル化による不活性化、ゲノムのDNA損傷に対する修復に関連することが新たに判明した。
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