研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリの持続感染は慢性胃炎、消化性潰瘍さらには胃癌や、MALTリンパ腫を引き起こすことが知られている。ヘリコバクター・ピロリは胃粘膜に生息するが、細胞侵入性はなく、強力な空胞化毒素、VacA毒素を産生する。VacA毒素のマウスへの経口投与により胃粘膜細胞の空胞化とマスト細胞と単球の浸潤を認めた。VacAはマスト細胞に作用しTNFα,MIP-1a, IL-1b, IL6,IL-10,IL-13などサイトカインの産生を促したことから、ヘリコバクター・ピロリ感染における炎症の惹起に関わることを明らかにしている。加えて、ヒト胃癌由来株化細胞であるAZ-521細胞を用いてVacA毒素の宿主受容体として膜結合型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)βが機能することを細胞レベルで証明してきた。 本研究では、RPTPβ遺伝子KOマウスでは正常マウスにみられるVacAの経口投与による胃炎、胃潰瘍が観察されないこと、RPTPβの本来の結合物質であり、上記のRPTPβ結合増殖因子の一つであるpleiotrophinを経口投与するとVacA同様に正常マウスにのみ胃潰瘍を発症させることなどから、VacAの胃粘膜障害にはRPTPβが宿主側の重要な担い手であることが分かった。 したがって、本研究課題を通して得た成果はVacA毒素が胃粘膜障害の主たる病原因子であり、宿主胃粘膜に存在するRPTPβに結合することによって種々の炎症さらには潰瘍などの病態が形成することを明確にすることができた。今後、VacAが本菌感染によって引き起こされる胃炎、胃潰瘍を防ぐための有力なワクチン開発の候補蛋白としてであることが明らかになった。
|