研究概要 |
本年度は、ヘムそのものが転写系をどのように調節するか、その調節を通して生体の恒常性維持にどのように機能する物質を開発できるかという点に着目して研究を行った。その結果、ヘムを必須要素とする転写調節因子Bach1が、ヘム分解系の酵素であり生体防御系の要とも考えられているヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子を制御することが明らかになった(J.Biol.Chem.,278:9125-9133,2003)。更に本転写因子を調節する分子として、各種NO供与体の可能性を考え、実際にニトロプロシドナトリウム(SNP)、SNAP、NOC12により調節されることがあきらかとなった。このことは、薬剤開発に大きなヒントを与えるものと考えられる。 更に、ヘムを必須要素とする転写調節因子Bach1によるヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子を制御は酸素応答と深く関わっていることが示された。ヘムオキシゲナーゼ-1遺伝子同様の機序によって低酸素応答することが示唆されているエリスロポエチン遺伝子ではHIFが低酸素応答の主役であるとされている。しかし、HIFを介する低酸素応答では酸素センサーは鉄であり、同じグループが1988年にScience誌に報告した、酸素応答にはヘムの合成が必須であるという結果と整合性がない。即ち、HIF以外に酸素応答のメカニズムが存在することが推定される。ここにBach1が酸素応答に関連すると云うことが示されたことは、HIFを介さないメカニズムとして極めて重要な発見であると考えられる。 更に、我々は悪性腫瘍の経過においてエリスロポエチンが重要な役割を担っていることもあきらかにしており(Carcinogenesis,24:1021-1029,2003)このことは、Bach1を始めとする転写機構を介する治療法と云う新しい概念に結びつく可能性を秘めている。
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