ポリグルタミン病はハンチントン病や遺伝性脊髄小脳変性症などを含む一群の疾患であり、CAGリピートの伸長がその突然変異の特徴である。CAGリピートは翻訳され、伸長したポリグルタミン鎖を形成するが、このポリグルタミンはきわめて凝集体を形成しやすくこれが細胞死や細胞変性の原因であろうと考えられている。そこでこのポリグルタミンの凝集を抑える化合物をスクリーニングするため、ポリグルタミン病の分子モデルとしてポリグルタミン鎖を安定性の極めて高い蛋白質の一つであるマッコウクジラミオグロビンへ挿入した。ポリグルタミン鎖の構造およびポリグルタミン挿入に伴う蛋白質の構造変化を検討し、変異型ミオグロビン内部のグルタミン鎖の構造を円偏光二色性、赤外分光法で調べたところ、ポリグルタミン鎖はベータシート構造をとっていることが判明した。また、35、50のリピート数をもつミオグロビンは凝集体を形成し始めると逆平行ベータシート構造を含んでいることが明らかになった。この系の確立で凝集体形成抑制のスクリーニングが可能となった。この系を用いて200種類の候補化合物のスクリーニングを行い、凝集抑制効果のある化合物を見いだした。この効果についてポリグルタミンを誘導発現する細胞死モデルの系を用いて検討したところ、調べた化合物に関しては分子モデルの凝集抑制効果と細胞死抑制効果はほぼ平行した結果が認められた。本年度はさらにハンチントン病モデルマウスを用いてその効果を検討し、生存日数、運動機能に改善を認めることを確認した。
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