研究概要 |
1)HGFの虚血性心疾患治療への応用 申請者は虚血性心疾患に対する遺伝子治療臨床研究実施に向け,前臨床試験としてブタ虚血心モデルにおける同遺伝子の効果を検討した.臨床応用を考慮して実践的アプローチである3次元エレクトロマッピングカテーテルシステム(NOGA system)による左室心腔内からの遺伝子プラスミド注入は,血液学的データに異常所見を認めず安全性が示唆され,また注入部位における遺伝子発現が確認され簡便に目的部位に注入できることを示した.血管造影において側副血行路の発達を示唆するRentrop scoreの改善を認め,またマイクロスフェアビーズを用いた検討でも血管新生による血流量の有意な増加を認めた.申請者は既に,カテーテルを用いた虚血性心疾患に対するHGF遺伝子治療臨床研究の申請を行っており,安全性・有用性を本研究において再確認した. 2)血清HGFの臨床指標としての有用性 高血圧患者において血清HGF濃度と血管内皮機能に有意な相関があることを示し,動脈硬化の指標としてのHGFの有用性を示した(Hypertension 2002;15:499-506).さらに申請者は,内皮障害部位において組織HGF濃度はcAMPの発現低下・TGF-βの発現上昇に伴い転写レベルで抑制されている可能性を示し,プロスタグランディン製剤・アンジオテンシン受容体拮抗薬のHGF産生増強を介した抗動脈硬化作用を示した(Journal of Endocrinology 2002;175:217-223,Heart & Vessels (in press)).また,閉塞性動脈硬化症の患者において血清HGF濃度が上昇し,さらに同疾患の重症度との相関も示し,同疾患の治療薬であるプロスタグランディン製剤投与を介して血清HGF濃度を上昇させ,知られていた同薬剤の血管疾患への効果に加え,HGF産生増強作用が内皮機能を改善し治療効果を示すことを明らかにした.このように血清HGF濃度は組織HGF濃度の低下に対する代償機構であることが示唆され,薬剤による改善にHGFが重要な役割を果たしていることが示された.
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