研究概要 |
有棘赤血球舞踏病(choreoacanthocytosis)は、常染色体劣性遺伝形式をとり、痴呆、性格変化、不随意運動、てんかんに加え、有棘赤血球症を示す遺伝性神経変性疾患である。この疾患の遺伝子座位CHACが9番染色体長腕9q21の6 cMの領域に存在すると報告されていたが、私は患者家系を用いハプロタイプ解析を行い、この候補領域を1.7 cMにまで狭め、ESTs (Expressed Sequence Tags)を調べ、新規遺伝子CHACが患者でのみ部分欠失していることを発見した(Ueno et al. Nature Genet.28,121-122,2001)。このCHAC遺伝子は、高等動物では全く報告のない新規遺伝子であり、cDNAで約10 kbの大きさを持ち、遺伝子DNAでは約70個のエクソンからなる全長数Mbに及ぶ巨大遺伝子であった。 有棘赤血球舞踏病患者では、CHAC遺伝子の欠失により他の劣性遺伝性疾患と同様に機能の喪失によって痴呆を中心とした障害が起こると推定されるが、有棘赤血球舞踏病は、常に常染色体劣性遺伝性とは限らず、時に常染色体優性遺伝を呈する報告がある。今回解析した家系のうち、CHAC遺伝子の部分欠損を持つヘテロ接合体においても末梢赤血球の有棘化や人格変化、痴呆症状を呈していた。そのため、神経疾患や痴呆を含む精神疾患患者群、および健常対照群を対象にこの部分欠損の有無を検討している。
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