研究概要 |
有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis、CHAC)は、日本人に多い遺伝性神経変性疾患で、成人期になり、ハンチントン病類似の不随意運動やてんかん、痴呆、統合失調症様の精神症状などの中枢神経症状に加え、末梢神経症状、末梢血液像での有棘赤血球症を示す。私のグループでは、3家系、4症例の日本人家系解析から9番染色体長腕9q21領域に遺伝子座位を絞り込み、CHAC遺伝子を発見した。CHAC遺伝子は、初めて高等動物で示されたタイプの細胞構成たんぱく質であり、240kbpの大きさを持つ70個以上のエクソンから構成される遺伝子で、ほとんどすべての組織で発現されていた。経験したCHAC患者ではホモ接合性に遺伝子DNAの60番と61番エクソンを含む5,937bpが欠失するため発症すると考えられた。CHACは常染色体劣性遺伝と思われているが、欠失変異対立遺伝子を1つ持つヘテロ接合体(保因者)である患者の親で感情の不安定性や認知の障害があること、また、前頭側頭型痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症家系がCHAC遺伝子座位の近傍に連鎖していることが報告されていることから、CHAC遺伝子変異が痴呆など精神障害を起こす可能性を考え、解析を行った。統合失調症、気分障害、アルツハイマー病、前頭側頭型痴呆、特発性てんかんなどの患者群および健康対照群を対象とし、エクソン60、61の欠失変異および新規確認したGAT三塩基繰り返し型多型を用いて検討した。その結果、統合失調症、アルツハイマー病、前頭側頭葉痴呆、特発性てんかん患者では全く見られなかった欠失変異が、気分障害患者では2名ヘテロ接合性に確認された。しかしながら、遺伝子解析の結果、上記精神障害とCHAC遺伝子の間に統計学的に有意な所見は得られなかった。
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