ラット腎虚血再潅流モデルを作成し、アクチビン・フォリスタチン系の関与を検討した。虚血再潅流後、尿細管におけるアクチビンAの発現が一過性に増加したが受容体の発現は変化しなかった。またアクチビン・アンタゴニストであるフォリスタチンの発現は一過性に減少した。この結果は虚血再潅流後にアクチビン作用が増強していることを示唆している。そこでアクチビン作用をフォリスタチン投与により抑制したところ、虚血再潅流後の細胞浸潤、アポトーシスなどの組織学的異常所見が著明に改善するとともに、上皮細胞におけるDNA合成が増加した。フォリスタチンが尿細管障害を減少させるとともに尿細管上皮の再生を促進することが明らかになった。また虚血再潅流後にみられるBUN、クレアチニンの増加は有意に改善した。これらの結果は、アクチビンが虚血再潅流後の尿細管障害を増悪していること、この作用をフォリスタチンで抑制すると腎障害が改善することを示している。次にこの腎障害モデルにおいて、アクチビンの作用点を明らかにするため検討を行った。虚血再潅流後に発現が変化する転写因子を検討したところPax-2の発現が増加することが明らかになった。Pax-2陽性細胞は上皮細胞のマーカーであるサイトケラチンと間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの両者を発現しており、尿細管上皮の前駆細胞であると推定された。腎虚血再潅流後にアクチビンを投与するとPax-2陽性細胞は著減し、また逆にフォリスタチンを投与するとPax-2陽性細胞は著増した。また培養尿細管細胞を用いた検討によりアクチビンがPax-2のmRNA発現を増加させた。以上の結果から、アクチビンは尿細管前駆細胞においてPax-2発現を抑制的に調節するとともにPax-2陽性細胞の分化をも抑制的に制御していることが推定された。
|