研究概要 |
妊娠中のラット母体に軽度ストレスを負荷すると、短時間のストレス負荷(1日30分間の拘束ストレスを妊娠15-17日の3日間負荷、以下では30分ストレス群と呼ぶ)では胎仔脳ニューロンの形態はtrophicな変化を示すが、長時間のストレス(1日4時間の拘束、以下では4時間ストレス群と呼ぶ)では逆にtoxicな変化を示した。これらの結果に基づいて、私たちは、特に30分ストレス群動物の成熟後の記憶・学習行動実験を行い、これら動物の学習効果が有意に亢進することを明らかにした。 本研究では、上記のような研究成果をもとに海馬ニューロンの分化・発達と生後の記憶・学習の亢進にかかわる遺伝子を同定するために、DNAチップを用いて検討を行った。30分ストレス群、240分ストレス群、対照群の3群における遺伝子の発現をDNAチップ(各群3枚)で検索した。使用したDNAチップは、Affymetrix社製のRat Genome U34Aで約8800遺伝子を含むものであった。解析した遺伝子の内訳は、receptor, channel, transporter, enzyme, kinase, phosphatase, transcription factor等である。実験では、全脳および海馬の両方について検討した。胎仔の全脳あるいは海馬からtotal RNAを抽出、Poly(A)+RNAの抽出、逆転写酵素によるcDNAの合成、in vitro転写によるビオチン化cRNAの量産・精製、ビオチン化cRNAの断片化、内部標準物質を添加後チップに注入、ハイブリダイゼーション及び洗浄、スキャナーによる情報の読み取り、データ解析の手順で結果を得た。遺伝子発現の再現性、強度、有意な変動の基準によって注目すべき遺伝子をランク付けした。さらに、対照群に比べて、30分ストレス群及び240分ストレス群で増加あるいは減少する遺伝子(5〜20遺伝子)をリストアップした。海馬における有力な遺伝子の中には、神経栄養因子、アルツハイマー病関連遺伝子、神経細胞のガイダンスに係わる遺伝子等が含まれていた。また、全脳と海馬では、変動を下す遺伝子が大きく異なっていた。
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