研究課題/領域番号 |
13557097
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 泰隆 東京大学, 医科学研究所, 助手 (40163422)
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研究分担者 |
螺良 愛郎 関西医科大学, 医学部, 教授 (90098137)
清水 本武 東京都医学研究機構, 東京都臨床医学総合研究所, 主任研究員 (10124463)
善本 隆之 東京医科大学, 難病治療研究センター, 助教授 (80202406)
柳衛 宏宣 先端科学技術研究センター, 特任助教授 (30212278)
江里口 正純 先端科学技術研究センター, 特任教授 (10114406)
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キーワード | Fasリガンド / がん遺伝子療法 / 抗腫瘍免疫 / 非ウイルス性ベクター / アポトーシス / ケモカイン / マクロファージ / 好中球 |
研究概要 |
Fasリガンド(FasL)発現腫瘍は免疫細胞の細胞死を誘導するため免疫抑制が起きると報告されているが、我々の実験結果では、逆に、特異的抗腫瘍免疫が成立した。そこで、FasL発現腫瘍による腫瘍特異的免疫誘導の臨床応用を目的として、乳癌治療に対する基礎的研究および臨床応用へ向けた準備を行ってきている。今年度は、1)FasL発現腫瘍による抗腫瘍免疫成立機構の基礎的検討、2)FasL遺伝子導入マウス乳癌株BJMC3879の活性の検討、3)臨床応用に向けた非ウィルスベクターの開発、を中心に研究を行った。 1)昨年度、好中球ケモカインレセプターCXCR2ノックアウト(KO)マウスを用いて、FasL発現腫瘍による炎症性細胞の湿潤機構を検討した。FasL遺伝子導入MethA腫瘍(MethA+FasL)をマウス腹腔内に投与すると、野生型では多数の好中球と少数のマクロファージ(Mφ)が、KOマウスではMφのみが誘導され、CXCとCCケモカインが遊離した。好中球の湿潤にはCXCケモカインが必須であり、炎症性細胞の湿潤にはMφが重要な役割をしていることを明らかにした。今年度はMφの役割を更に検討した。In vivoの実験結果と同様に、腹腔MφはMethA+FasL細胞と培養すると、MIP-2とKCのCXCケモカインとMIP-1のCCケモカインが著明に誘導された。さらに、MethA+FasL細胞をマウス腹腔内に投与してF4/80陽性MφをアネキシンVで染色すると、アポトーシス細胞は少なかった。即ちMφはMethA+FasL細胞によってアポトーシス以外の細胞死が誘導され、各種のケモカインが産生した。従って、Mφが抗腫瘍免疫の誘導に重要であることを再確認した。これらの知見は本法の臨床応用を考える上で重要である。 2)マウス乳癌BJMC3879は高転移性で、乳癌の転移治療の最適な研究モデルである。昨年度、BJMC3879にFasL遺伝子を導入した株を作製した。本株はFas陽性腫瘍のアポトーシスをin vitroで誘導し、in vivo投与すると、好中球湿潤が認められた。このことから、本株を用いた研究は、臨床応用へ向けた特異的抗腫瘍免疫誘導のモデルとして、まず皮下移植にて、腫瘍の発現およびその増殖実験を行ったが、コントロールと比較してやや増殖速度が遅い傾向を示したものの、有意差は認められなかった。このため、マウスに静注して、肺コロニー作成の面からFas陽性腫瘍の抗腫瘍活性について検討している。抗腫瘍効果が低いのは、FasLの発現が弱いためと考えられ、細胞種による発現の差異の原因究明およびその克服のために対策を講じることが急務であることが判明し、着手したところである。 3)一方で、ヒトへのがん遺伝子治療の実用化に向けて、非ウィルスベクターの開発を行っている。今年度は、ポリエチレンイミン(PEI)と呼ばれるポリマーを用いて、JTS-1およびPEG-Cを併用して、BJMC株に対して実際にFasL遺伝子を用いての導入実験を行った。しかし、FACSでFasL蛋白の発現が確認できず、このことは比較的遺伝子導入効率のよい細胞株でも同様の結果であったことから、ポリマーおよびプラスミドの両面から検討を行っている。しかし、RT-PCRによるFasLmRNAは観察されたことから、蛋白発現を酵素抗体法での検討を開始したところである。 以上、FasL導入腫瘍細胞の抗腫瘍効果を応用した癌治療の臨床応用に向けた検討を鋭意行ってきているが、実際の臨床の場で応用していくには、まだ解決しなければならないいくつかの重要な問題のあることが浮き彫りになった。
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