研究概要 |
欧米での膵臓移植の臨床成績は着実に向上し、確立された医療になっているが、脳死ドナー不足が大きな問題である。わが国でも臓器移植法案が成立し、脳死ドナーからの臓器移植が始まって4年になるが、膵臓移植は10例(うち心停止ドナーからの臓器提供1例)に行われたのみである。将来も脳死ドナー不足は容易に予想される。そのひとつの解決策である生体ドナーからの膵臓移植は、ミネソタ大学で130例以上の施行例があるが、血栓症が多く、安全性の問題が残っている。われわれは以前より生体からの膵臓移植の臨床実施に向け、大動物(イヌ)を用いて改良型の新しい部分膵臓移植術式を考案し、その安全性、合理性を証明して来た(Transplant Proc 28,1804,1996,Transplant Proc 30,145,1998)。 現在までに当院では膵臓移植のレシピエント登録患者5名を診療しているが、いずれも適合する脳死ドナーの出現を待っており、臨床生体膵臓移植は実施できていない。しかし、既に「生体膵臓移植(および腎臓移植)の臨床実施」が施設内倫理委員会に承認されており(平成14年6月4日)、生体膵臓移植臨床実施の準備は全て整っている。また、ミネソタ大学では教室員が今年度も引き続き生体膵臓移植の研修を続けている。 実施に至るまでの準備段階として達成した今年度の業績を報告する。ドナーの膵臓は線維化のない正常膵であるので、膵縫合不全の可能性が高い。部分膵と消化管の安全な吻合は本移植術の成否を握るカギとなる。シュミレーションの意味合いもあり、以前より臨床での膵頭十二指腸切除術後の膵消化管吻合法として開発した膵管嵌入法の安全性を証明し報告した(World J Surg 26,162,2002,Arch Surg 137,1044,2002,Hepato-Gastroenterol 49,1124)。本再建法では50例以上連続して膵縫合不全の発生を見ていないので、生体膵臓移植の膵胃吻合あるいは膵空腸吻合にも安全に応用できるものと考えられる。 生体からの膵移植の別のオプションが生体膵島移植であるが、レシピエントによっては膵臓移植より膵島移植の適応になる場合もあるため、今年度は膵島移植の実験的研究にも精力的に取り組んだ。脳死ドナーからの分離膵島では炎症性サイトカインがその後の膵島の障害、拒絶をきたすことを証明し、脳死段階で既に膵島の障害が始まっており、生体からの膵島移植の優位性を推測した(Cell Transplant, in press)。また、膵島のapoptosis抑制に、膵臓保存で有効性が示された神戸大学独自の二層法保存を応用し、有効性が証明された(Surgery, in press)。
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