研究概要 |
外傷性蝸牛神経変性の病態とそれに対する治療方法の探求を行った。具体的には、我々が2000年度に確立したラット実験モデル(Sekiya T, et al.Exp Neurol 161:490-502,2000)を用いて蝸牛神経圧迫損傷後に生じる蝸牛神経変性メカニズムについて検討し、さらに薬理学的治療方法について検討した。 (1)従来、その変性の時間的経過が不明であった蝸牛神経の外傷性変性の時間的経過を明らかにした。すなわち、我々が用いた実験条件下では、蝸牛神経変性が受傷後約1週間で完成することが明らかになった。 (2)また、外傷性蝸牛神経変性がnecrosisとapoptosisの両方の病的過程によって生じていることが初めて明らかになった(Brain Res 200;905:152-60;Exp Neurol 184:648-658 2003.いずれも論文別刷添付)。これら(1)、(2)は、外傷性蝸牛神経変性に対する治療法を確立する上で必須の知見である。 (3)薬理学的治療方法として、ステロイド、カルシウム拮抗剤、basic fibroblast growth factorなどの効果を検討した。その結果、外傷が軽度の場合、これらの薬物の効果が期待できることが分かった(論文別刷添付)。 最近、分子生物学的研究の発展によって内耳、蝸牛神経の発生に関する遺伝子が多く同定されている。これらの遺伝子を操作することによって、有毛細胞を再生させようとする試みも行われている。我々の現在の研究は、蝸牛神経変性防止を薬理学的に防止しようとする段階であるが、さらなる展開をはかるためには、幹細胞、ES細胞などの細胞移植などの技術を用いた研究へと発展させる必要がある。
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