ガス麻酔薬のリガンド依存性イオンチャネルに対する作用を検索したところ、NMCA受容体およびβ2サブユニットから構成されるニコチン性アセチルコリン受容体が、ガス麻酔薬に対して感受性が高かった。一方、グリシン受容体、GABA受容体タイプA、GABA受容体タイプCなどの抑制性のイオンチャネルやセロトニン受容体タイプ3に対する亜酸化窒素の作用は等臨床麻酔濃度のイソフルレンに比較して小さかった。ニコチン性アセチルコリン受容体チャネルβサブユニットにおけるガス麻酔薬感受性決定部位を検索したところ、2番目の膜貫通領域の中央近くに位置するバリン(β2)/フェニールアラニン(β4)がβ2とβ4サブユニットにおけるガス麻酔薬感受性の違いを決定することが示された。さらに、この部位はガス麻酔薬だけではなく、揮発性麻酔薬、ペントバルビタール、長鎖アルコールに対してもβ2とβ4サブユニットにおける感受性の違いを決定することが明らかとなった。また、NMDA受容体における揮発性麻酔薬およびガス麻酔薬に対する感受性を決定する部位を検索したところ、マグネシウムや各種のチャネルブロッカーの作用に重要と考えられているζ1サブユニットの第二番目の疎水性領域に共通して存在するアスパラギンが、ε2サブユニットと異なりこれらの麻酔薬の感受性を決定していることが明らかになった。 このことから、ガス麻酔薬は少数の特定の標的に作用することで麻酔作用を惹起していることが示唆され、しかもチャネル内壁に面しているアミノ酸部位が種々のイオンチャネルに共通して作用感受性決定に重要であることが示された。
|