歯科口腔領域において、三叉神経を中心とする知覚神経麻痺、および咀嚼運動障害は、癌、炎症、奇形などの病態発症およびその治療過程でしばしば起こる重篤な機能障害であるとともに、機能回復がきわめて困難な疾患の一つでありその克服には1)中枢および末梢の神経細胞の生と死の制御機構の解明、2)失われた神経回路の機能的再構築の二点がきわめて重要と考えられる。本年度は前者に関して、我々が同定・機能解析してきたストレスシグナル応答性MAPキナーゼ「ASK1」が神経細胞死メカニズムのキー分子であることを示唆する知見を得た。すなわちASK1遺伝子ノックアウトマウスを作成したところ、初代培養細胞を用いた実験結果から、酸化ストレスおよびTNFシグナルにおいて、ASK1が細胞死(アポトーシス)に必須であることが証明され論文発表(EMBO Rep. Vol.2 222-228. 2001)すると共に、さらにその活性制御因子として新たにプロテインホスファターゼ「PP5」を同定した(EMBO J. Vol.20 6028-6036. 2001)。 また最近、小胞体ストレスによってTRAF2が小胞体受容体であるIRE1に結合しJNKを活性化することに着目し、そのシグナル伝達過程においてASK1が必須であることを見いだすと共に、ある種の神経変性疾患において細胞内蓄積タンパク質が小胞体ストレスを誘導しIRE1-TRAF2-ASK1シグナル伝達経路が活性化されることを発見し、神経細胞死の分子メカニズムを明らかにしており現在、個体レベルでの解析を行っている。来年度はこれらの結果をもとに神経細胞死の分子メカニズムの普遍性を解明し、臨床への応用を試みる。
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