歯科口腔領域において、三叉神経を中心とする知覚神経麻痺、および咀嚼運動障害は、癌、炎症、奇形などの病態発症およびその治療過程でしばしば起こる重篤な機能障害であると同時に、機能回復がきわめて困難な疾患の一つである。これらに対するアプローチとして、1)中枢および末梢の神経細胞の生と死の制御機構を解明する、2)失われた神経回路を機能的に再構築することの二点がきわめて重要と考えられる。まず1)に関しては、我々の最近の研究によって、神経変性疾患モデルにおける神経細胞死の分子メカニズムが明らかとなった。また2)については、我々が同定・機能解析してきたストレスシグナル応答性MAPキナーゼ「ASK1」が、ある一定の条件下において神経細胞の分化促進を誘導することを見いだしていると同時に、新たな実験系として神経幹細胞の初代培養および分化誘導系を確立しており、これらの研究成果をもとに、本研究は、神経細胞死の分子メカニズムの普遍性を解明し、臨床への応用を試みることを最終的な目標とした。その結果、ストレスを介した細胞死の病態モデルとしてポリグルタミン病についての解析を行い、ASK1がこの疾患の神経変性をメディエートするタンパク質の一つであることを初代培養細胞系を用いて明らかにするとともに、実際に疾患患者の脳においてASK1が活性化されていることなどを示してきた。さらに、これらの結果を個体レベルで確認するため脳の部位特異的にポリグルタミンを発現させるトランスジェニックマウスを作成し、ASK1ノックアウトマウスとの交配によりどのような表現型が得られるかを解析し、ASK1が神経変性疾患に必須の分子であることを証明しこれらの結果を論文に発表した。
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